まいらせ候/まいらせ候/まいらせ候」成り立ち


最終更新: 令和6年1月21日

 

まいらせ候/まいらせ候/まいらせ候

「まいらせさうらふ」または「まいらせそろ」と読みます。「まいらせ候」の合略仮名です。

 

図1:「まいらせ候」の成り立ち

 

 

解説


 1331年 <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/_000ki_04/7/1/00000031?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34225526>

 1370年 (1) <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/_000ki_04/7/2/00000072?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34133594>

 1370年 (2) <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/_000ki_04/7/2/00000072?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34127079>

 

 上の字は「まいらせ候」の続け書きです。一字一字が読み取れるので、合略仮名ではなく続け書き (連綿れんめん) と呼ぶべきでしょう。

「ま」は、1370年 (2) では形が大きく崩れています。

「い」は、1370年 (1)・(2) では比較的大きく書かれています。

ら」は、辛うじて形をとどめています。資料が少いのではっきりとは言えませんが、時代が進むにつれて短くなっていったようです。

「せ」は、1370年 (1)・(2) では「せ」の形になっています。

「候」は、ただの点になっています。

 

 室町時代後期 <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/0673/6/2/00000009?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34198889>

 1474年 <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/0673/6/1/00000032?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34195461>

 1672年「麓木抄」([笠間影印叢刊刊行会 2003] から引用)

 1822年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9893355/2>

 

 上の字は「まいらせ候」の合略仮名です。五つの字が連なって一つの字のようになっています。

「ま」は、室町時代後期の形では「ま」の面影を残しています。

「い」は、大きく縦長に書かれています。

ら」は、ただの短い縦棒になっています。

「せ」は、小さな結び目になったり直線になったりしています。

「候」は、ただの点にしたり上へ払い上げたり、いろいろな形に書かれています。

 

「まいらせ候」の合略仮名は「虚無僧こむそう」と呼ばれることもあります。文字の形が虚無僧に似ているからです。江戸時代 (安永期) には「虚無僧の押合つてゐるくどい文」という川柳も詠まれています (佐々・西原 1916 p.155)。

 

 1877年 <https://dl.ndl.go.jp/pid/866698/1/12>

 

 上の字は「まいらせ候」の合略仮名です。平仮名であるはずの「まいらせ候」に、さらに平仮名で読みが振られています (「まいらせ」が「まゐらせ」になっているのは、当時の仮名遣いではよくあることです)。同じような現象は「さま」「より」にも見られます。

 

図2:『北斎漫画』の轆轤首

(<https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/851657/16> から引用)

 

 上の絵は葛飾北斎かつしかほくさいが描いた轆轤首ろくろくびです。きせるの煙が「そんし」、首が「まいらせ候」の形になっています。合せて「ぞんじまいらせ候」と読めます (シモン=及川 2006)。

 

 1890年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/866931/3>

 1891年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/885481/18>

 1901年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/781873/66>

 1907年 <https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/993339/1/342>

 

 上の字は活字の平仮名の「まいらせ候」です。

 

 1891年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/885481/18>

 1896年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/866301/132>

 1897年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/882312/7>

 

 上の字は活字の平仮名の「まいらせ候」です。

 

 1895年 <https://dl.ndl.go.jp/pid/866852/1/34>

 

 上の字は活字の平仮名の「まいらせ候」です。

 

 1596年 <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/0071/11/1/00000017?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34089210>

 1615年 <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/_000ki_35/24/00000002?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34060406>

 1619年 <https://clioimg.hi.u-tokyo.ac.jp/viewer/view/idata/000/0071/7/2/00000048?ci=1&kts=2&dts=34&mts=34068426>

 1940年 <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3450602/240>

 

 上の字は「まいらせ候」の仲間で、「まいる」と読みます。「まいる」の合略仮名です。昭和の翻刻史料にも活字で刷られています。

 

 

参考文献


 笠間影印叢刊刊行会編 (2003)『字典かな: 写本をよむ楽しみ [新装版]』笠間書院.

 佐々醒雪・西原柳雨編 (1916)『江戸研究川柳吉原誌』育英書院, <https://dl.ndl.go.jp/pid/932712/1/1>.

 シモン=及川, マリアンヌ (2006)「文字で描く: 江戸時代の文字絵の伝統とその変貌」,『比較日本学研究センター研究年報』2, p.95-105, お茶の水女子大学比較日本学研究センター, <https://ci.nii.ac.jp/naid/120005756377> 2021年9月18日閲覧.

 

 

画像欄